アトリエ森野&森の図書館

「アトリエ森野&森の図書館」は栃木県宇都宮市大谷町にあります。この地区は古くから「石の里大谷」と呼ばれ「大谷石」の採掘が続けられており、石の町として発展してきました。

「大谷石」は、大正時代にアメリカの建築家フランク・ロイド・ライトによって設計された旧帝国ホテル本館にも取り入れられ、世界に知られるようになりました。地下採掘場跡のひとつは、現在「大谷石資料館」として整備されており、ミュージックビデオの撮影やロケ地としても有名です。

石塀、蔵、家の内装・外装など。採った石を様々な方法で利用する大谷石文化が、人々の暮らしに深く根ざしています。「アトリエ森野&森の図書館」の建物も、もともとは石屋さんの車庫だったところをリノベーションしました。宇都宮駅からバスで20~30分程度、「切通し」というバス停で下車。歩いてすぐ、屋根からちょこんと煙突が出ている、趣のある建物です。

きっかけ

歴史ある石文化が脈々と受け継がれるこの町にある「アトリエ森野&森の図書館」館長の柄澤(からさわ)さんにお話を伺いました。

「生まれ育った町なので大谷石は当たり前すぎて、特別な景観だとか観光地であるとか、実感はありせんでした。しかし、学生時代にイタリアを旅したとき、石畳や石壁の街並みに、どこか懐かしい思いが沸き上がってきたのです。それがきっかけとなり、大谷の町とともに自分が成長してきたことに気づきました。人々の生活と共に積み重ねられた石の経年変化や、朽ちかけた石に植物がからまったり隙間からユリの花が毎年咲くのをたのしみにしたり、独特な生活景を愛しく感じます。

館長の柄澤さんは美術が専門。

子どもの頃から絵を描くことと本がすきで、学生時代はアートブックや自費出版の本なども制作してきました。今回の活動の出発点は、2014年に始めた絵本屋さんです。店舗の一角を借りて始めました。その後、2016年に現在の場所に移転しました。紆余曲折を経て、せっかくなので出来るだけ開かれた場所にできたらいいなと模索を続けていたところに、焼津の「みんなの図書館さんかく」さんに出会いました。図書館としての機能や「一箱本棚オーナー制度」に魅力を感じて、やってみることにしました。

時が経つのも忘れてしまう「森」の空間

「アトリエ森野&森の図書館」は、ブックカフェと工房からできています。一歩入ると、別世界に来たような感じがします。梁のみえた天井、そして大谷石造りのおしゃれで趣のある壁や床。お茶をしながらくつろげる図書空間と、ものづくり体験や美術教室などもできる工房がつながっています。

「本を読んで夢中になっているときに、あっという間に時間が経っていることってありませんか。ものづくりも同じです。没頭していたらいつのまにか時間が経っていたということがあります。そんなふうに、気づいたら時間が経っていた……というような場所になれたらと思っています。」

柄澤さんが考えた「ひとはこ図書」は、遠くから見ると、木の形になるように組み立てられています。木に「ひとはこ図書」が芽吹いていつか森になるようにとイメージされたとのことです。「森の図書館」という名前のごとく、「森」の中にいるような図書空間に、静かな時間が流れます。

答えを押し付けない自由さ

現在、オーナーさんは5名程度。オーナーさんの箱以外にも柄澤さんが選書した絵本や雑貨などが置かれていて、一箱一箱、それぞれの世界観があふれています。

「あるとき、オーナーさんの70代の方が、生活の中でふと思いついた五・七・五を記した一筆箋を、ご自身の棚の本のそばに、そっと置いてくださいました。生活の中で自然に生まれた言葉が素敵で、そしてあまりにもさりげなく置かれているので、私も挿絵を描きたくなり、コラボレーションすることにしました。それがずっと続いています。そのうち、一冊の本ができそうです。」

高齢の方にとっても、日々の何気ない発見が生きがいやたのしみにつながる、優しい場所になっていることが伝わります。

「芸術は、答えは一つではありません。本の世界もこれと似ていると思います。答えを押し付けるのではなく、見る人にゆだねる。見る人の状況が違えば、過去に見た同じものでも、以前とは違う感じ方をすることもあります。」

この場所での過ごし方も、訪れたそれぞれの人がそれぞれに味わってもらえたら良い……押し付けではないこの優しさは柄澤さんの考え方から生まれているのですね。

今後やってみたいことは「リトルフリーライブラリー」だと話す、柄澤さん。これは、家の庭先や町中に、ポストのような形で一箱図書館を置くという試みです。

「図書館が不定休で、開館時間に来られず利用できなかったり。そういう方をはじめ、誰にでもいつでも開かれているという自由さが良いですね。」

呼吸をするように流れる音楽とともに

呼吸するように流れる音楽。その調べとともに「森」の中で、読書やものづくりに耽りながらゆったりと過ごす時間。「森野アトリエ&森の図書館」を温かく見守る大谷石に、そんな時間がまた歴史となって染みこんでいきます。

アトリエ森野

〒321-0345 栃木県宇都宮市大谷町1297−1
公式ウェブサイト https://r.goope.jp/ateliermorino
公式インスタグラム https://www.instagram.com/atelier_morino/

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