茅ヶ崎の海が窓一面に見渡せて波の音が心地よく響いてくる。ここはコワーキング&ライブラリー「Cの辺り」です。海のそばで過ごしたい。海を見ながら働きたい。そんな希望を叶えてくれる場所です。
運命的な出会い
ここを運営しているのは池田一彦さん・美砂子さんご夫婦。もともと週3回ほど、自宅の一角にある本棚を地域に開放し、小学生の娘さんが館長となって「うみべのとしょかん」を運営していました。
その活動の延長上に「もっと誰にでも開かれていて、居心地よく過ごせる場所がつくれないものだろうか」と、さらに多くの人とつながることのできる開かれた場所を模索していました。また、在宅ワークに煮詰まっていたときに海を散歩しながら思い描いていたのが、「海を見ながら仕事をする」ということ。そんなとき、この場所と出会います。
海が目の前にある、広くて穏やかな場所。運命的な出会いでした。
「海を見ているだけで穏やかな心になれます。波の音と風、潮の香りを感じながら仕事をすると集中力が全然違うんです。たとえ働き方や生き方に悩んでいても、海を見るだけでゆっくりとほどけていくようにも感じます。それに、海のある暮らし。海と本…と聞くだけで、もうそれだけでもわくわくしませんか?」
この場所だ!ここを拠点にしたい!そう思って、借りることを即決します。100件ほどの希望者がいたそうですが、その激戦も勢いで通ってしまうほどの運命でした。
doよりもbeを
運命の出会いの半年ほど前、株式会社beをともに立ち上げた池田さんご夫妻。
「何をしている人かではなく、どんな人であるか。何をするか(do)、よりも、どうあるか(be)を大事にしたいと思うんです。何をしている人かというdoingで人を判断してしまうとどうしても利用し合う関係になっていくように感じます。だから、人としてどうあるかという、もっと根源的なところを大事にしたいと考えました。会社を設立したときも、まず自分たち夫婦がどうありたいか、じっくり時間をかけて話し合いました。そのうえで、何をするか。どうあるかを軸としていれば、何をやっても私たちの会社だよね、という結論になりました。」
「どうあるか」という一番大事にしたい思いを、beという社名に込めました。
そして、「Cの辺り」の立ち上げにおいても、大事にしたい5つのbeを決めました。
「つくる」「つながる」「もちよる」「たすけられる」「おもしろがる」
海を目の前にしたこの場の楽しみ方を提供することによって、人と人の間に豊かな関係性を育み、幸せな働き方、あり方を探究してみたい。「C の辺り」は、そんなおふたりの思いが起点となり、動きはじめました。
プロセスを共有することの意味
プロセスを共有することが大事だと考えた池田さんご夫妻は「Cの辺り」を作るにあたって、地域の人々と一緒に過程を共有することを大切にしてきました。建築家のアドバイスも受けながら、せっかくだからリノベーションのワークショップをしちゃおう、と企画。
コロナ禍のタイミングだったため大々的に案内を出すことはしませんでしたが、5月の連休3日間でなんと50人を超える人が関わることになりました。知人、友人、地域のママ友、会社のつながりの方に加えて、そのときたまたま海に遊びに来た人、海辺を散歩していた人が「何をしているんですか?」「おもしろそうですね」と言って急遽参加することもありました。近所の人からの差し入れももらったりして、オープン前から成功を予感させる様々な出会いを生むリノベーションです。
「海があると人が集まりますね。海はそれだけで求心力があるようです。」
“つながる図書館”
ここの一箱本棚の一角は箱を積み重ねるタイプになっていて、オーナーさんの中には、自分の本棚を自分で作った方もいます。その一箱は縦にも横にも積むことができる上に、自分の手で作った本棚だからこそ、オーナーさんも大切に使います。
茅ヶ崎の土地柄か、サザンオールスターズに関するレアな本やレコード、生まれも育ちも茅ヶ崎という音楽プロデューサーの方が探究し続けているまちの音楽史を紐解いた本、毎朝3時間ビーチクリーン活動をしているオーナーさんが、海に漂うマイクロプラスチックごみを展示しつつ海の環境問題を親しみやすく紹介している棚もあります。また、一箱ずつ表札のように付けられた名刺サイズの看板には、そのオーナーさんの似顔絵と一言メッセージ、SNSにつながるQRコードも記されています。
「コンセプトは、“つながる図書館”です。感想カードやQRコードを通して本の感想を送りあったり、プロフィールを見てオーナーさんとつながったり。本を介した人と人のつながりが育まれるライブラリーでありたいな、と思っています。」
ハッピーアワー
平日の開館時間は9時~17時ですが、毎週木曜日の17時~19時を「ハッピーアワー」としています。子どもも大人も、地元の人も遠方から働きに来た人も、会員さんもそうじゃない人も。仕事の手を休めてみんなでワイワイ楽しもう、という時間です。先日は、近所の方が釣った魚を調理して持ってきてくれて、みんなで味わいました。すぐ目の前の砂浜で焚火をしてマシュマロや焼き芋を食べたり、室内で地元飲食店のテイクアウトを楽しみながらおしゃべりしたり。それぞれがそれぞれのハッピーな時間を過ごしています。
その他にも、地元のミュージシャンを招いたライブイベントや、休日午前に焚き火を囲んで本棚にある1冊について語り合う「焚き火ブックカフェ」、お店番のライブラリーオーナーさんが主催する「ワンテーブルイベント」など、大小さまざまなイベントも。
そんな時間から自然発生的に会員同士のつながりも生まれています。ライブラリーオーナーさんが精進料理の先生の本棚に影響を受けて料理教室に参加したらハマってしまった、写真家さんの本棚を見てコワーキングメンバーさんが仕事を依頼した、本の感想を送ったことがきっかけに貸し借り交換が続いている、など。これからもどんなつながりが広がっていくか楽しみです。
「これからは自分たちだけが真ん中にいるのではなく、この場を活用してオーナーさん主催の企画やイベントが次々に生まれて、私たちと会員さんの関係性がどんどんフラットになっていくといいなと思っています。みんなの記憶と思いが埋め込まれたこの場所を、みんなが使い倒してくれたら嬉しいです。」
海を目の前にしたこの場所で、毎日いろいろな人のハッピーが紡ぎ出されています。
お金だけじゃない「価値交換」
また、Cの辺りでは、新たな「価値交換」の実験を続けています。たとえば、リノベーションのアドバイスをくださった建築家の方や、看板に似顔絵を描いているイラストレーターさんへの対価は、その一部または全部を、本棚やコワーキングスペースを使える権利として交換しています。あえてお金だけを介さないやり取りは、お互いの信頼関係の上に決まりました。ほかにも、「トイレ掃除をさせてください」と自ら申し入れ毎週30分歩いてCの辺りに来てくれる方には、バイト代をお支払いする代わりに本棚提供を申し入れました。
「貨幣経済になる前は、人と人とが自分の持っているものを交換し合ったり、できることを交換し合ったりして社会が成り立っていたと思うんです。お金は便利ですが、その便利さ故に人と人の関係性を切ってしまうこともある。人と人の豊かな関係性が続くような、お金だけではない『価値交換』の実験をしていきたいと思っています。」
人と人の信頼関係の上に成り立つ「価値交換」。不思議と人を寄せ付ける海辺の図書館の素敵な空間を中心に、新しい価値の探究はこれからも続いてきます。
Cの辺り
〒253-0055 神奈川県茅ヶ崎市中海岸3丁目12986-25 浜磯ビル1階東
公式ウェブサイト https://be-inc.life/cnoataritop
公式インスタグラム https://www.instagram.com/cnoatari/
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