兵庫県の北東部、コウノトリの生息地として有名な豊岡市。2020年12月、豊岡駅からまっすぐのびる大開通りの商店街に、「本と暮らしのあるところ だいかい文庫」は誕生しました。
店主は、医師の守本陽一さん。開館から1年が過ぎた今、お話を伺いました。
参考リンク:「だいかい文庫」について書かれた守本さんのnote
医師がまちに小さな図書館をつくった理由
医師として働く傍ら、だいかい文庫の店主を務める守本さん。5年ほど前の学生時代から、「ケアとまちづくり」の活動をはじめます。
いろいろあるけれど、病院の中にいるだけでは予防や退院した後の生活支援ができる機会がないな、と感じたのがきっかけです。医師として働き始めてから、身体的な訴えだけでなく、孤独や生きがいの喪失についての訴えが多くあることに気づき、福祉や医療の役割について改めて考えさせられました。
まちに出ることで、そういった人々の孤独や生きがいにアプローチしつつ、予防や生活支援ができたらいいな、と思って。
まずとりかかったのは「地域診断」。まちにどんな健康課題があって、どんなリソースがあって、どういう解決方法があるかを考えていく手法です。
そこで課題が見えてきて、その解決のためのアプローチとして、他の学生や現地の医療者と一緒に「YATAI CAFE」をはじめました。 月に1回の開催だったのですが、徐々に来てくれる人が出てきて、まちに自分たちがやっていることを知ってくれている人が増えてきた段階で、固定の場所をつくっても来てくれるかも、とはじめたのが「だいかい文庫」なんです。
本の力
「だいかい文庫」をはじめるにあたっては、「YATAI CAFE」や「地域診断」など豊岡市に関わっていた時からの仲間で協力してくれる人が多かったといいます。
メインで関わっているのは医療や福祉に携わっている人が多いですが、本という切り口のおかげで、「YATAI CAFE」の時には関心の無かった人も来てくれるようになりました。新たに集まってきてくれる人がいたのは”本の力”だと思います。
まちで活動をはじめて5年、「だいかい文庫」をはじめて1年。
最初の1カ月くらいは一見さんも多かったのですが、徐々に常連さんが増えたり、自分たちがアプローチしたかった困りごとを抱えた人たちも来てくれるようになって。 新しいお客さんは一年経って減ってきてはいるけれど、初めて来てくれるお客さんもまだまだいます。思ったよりいろんな人が来てくれて。
初めての人も、ずっとの人も、オーナーさんになる人も、オーナーをやめても関わり続けてくれる人も…。みんな、うまく自分のちょうどいい関わり代を見つけてくれています。
思い描いていたものがカタチになっている、と守本さんは言います。
いきなり図書館をつくる、のではなく、地域のことを知って、地域と関わることからはじめたのが良かったんだと思います。ここまでやってきた過程で、地域の人にいろいろ教えてもらったり、自分たちの医療的なリソースを提供したり利用してもらったり、地域を巻き込んだり巻き込まれたり…。
これを4・5年くらいやってきたから、だいかい文庫をはじめても大きくつまづくことが無かったのかな、と思っています。
ここに言えば、なんとかしてくれる
医療者がやっていて、オーナーさんにも医療者が多い、だいかい文庫。
それもあってか、障害のある人や不登校の子、困りごとを抱えた人などが日常的に利用しています。社会に居場所を求めて、だいかい文庫を訪れる人は多いです。
ねこの子どもを引き取ってくれる人を探しています、という相談が来たんです。そのとき、「なんでも、ここに言えば、なんとかしてくれる」場所になってきているんだな、と感じて。結局、オーナーさんの一人が飼ってくれることになりました。
仕事がなくなってしまった人をハローワークや社会福祉協議会につなげたりすることもありました。まちなかにあるからこそ、ここだからこそ、早めに相談できたんだろうな、と思う出来事は多いです。
地域の人がリハビリ中の人をここに紹介してくれて、その人が常連さんになってくれたり、大学を辞めた女の子が社会に戻れない中で、だいかい文庫に来てお店番をして、地域社会に参加できる場所になったり。地域の中で、まちの人が役割と居場所を持てる場所になれているのは嬉しいです。
一番遠くにいる人に気を配る
いろいろな人が、いろいろなものを抱えて訪れる、だいかい文庫。訪ねてきてくれた人と接するうえで、「お店番の心得」があるといいます。
いくつかありますが、一番大切にしているのは“一番遠くにいる人に気を配る”こと。初めて来た人には丁寧にお話を聞いたり、そういうお話ができる雰囲気をつくったりすることは意識しています。
まちなかの「ケアの場」としての役割を担う、だいかい文庫。一方で、「表現の場」としての機能も果たしています。
「一箱本棚オーナー」というしくみは、表現することができるしくみだと思っていて。表現が一箱ではおさまらなくなったときに、突如“日本画展”がはじまったり“こけし展”がはじまったりしたのはおもしろかったです。
”こけし展”を開催してくれたオーナーさんは、普段から個人の趣味で集めている”こけし”を本棚に置いていて。シーズンごとに”こけし”を変えたりもしています。
この方のように、いつもは大きめの組織に属している趣味のある人が、自分を表現する場として使ってくれることが多いです。
関わり代のグラデーション
お客さんにもなれるし、常連さんにもなれるし、オーナーにもなれるし、お店番にもなれるし、その関わり方を途中で変えることもできる。無理せず自分に適した関わり方ができるのが、このしくみを取り入れた図書館の魅力だと守本さんは言います。
「一箱本棚オーナー」という仕組み自体が、「関わり代のグラデーション」をつくってくれていると思います。
図書館っていうカタチをとると、”コミュニケーションをとるための場所”じゃなくて、“本を借りるための場所”になるんです。そうすると、コミュニケーションをとりたくない人も来てくれるんですよね。コミュニケーションをとりたい人の場所はまちの中に他にもあるけれど、そうじゃない人の居場所になれるのが図書館ならではだと思います。
これからのだいかい文庫
開館から1年。思い描いていたカタチとなって、地域で様々な役割を果たす、だいかい文庫。これからの展開を伺いました。
だいかい文庫では、週1回、「居場所の相談所」をやっています。何かあったときに、暮らしのことやケアのことを相談できる、”まちの保健室のような場所である”とともに、まちの図書館として、地域のいろんな人が参画してくれる”文化的な場所である”ことを両立できたらいいな、と考えています。
でも一番は、“ここにありつづけること。”一箱本棚オーナーというしくみ上、オーナーさんがコミットしてくれれば、勝手に本のあるいい場所になっていくはず。ここにあり続けることを継続していけたらいいな、と思っています。
これから訪れるひとへ
本好きなら誰でも。あとは、体調を崩したとか、仕事をやめたとか、地域に居場所がないとか、困りごとを抱えたひとに気軽に来てもらえたら嬉しいです。
お店番をやりたい人や、一緒に企画をやってくれる人も募集しています。
これから図書館をつくるひとへ
運営については他の館長さんや土肥さんに聞いたほうがいいと思うので(笑)。医療者的な目線で。地域で本棚をやりたい医療者さんって意外といると思うんです。地域の医療や福祉に関わる人がオーナーとして参画することで、病院までのハードルが下がったり、地域の医療や福祉について考える場所ができたりするといいな。医療者と地域の人の接点がうまれればと思います。
まちの図書館として、カフェテリアとして、本屋として、相談所として、表現の場として。「本と暮らしのあるところ だいかい文庫」は、今日も”ここ”で、まちの人々を見守っています。
本と暮らしのあるところ だいかい文庫
〒668-0033 兵庫県豊岡市中央町6-1
公式ホームページ https://carekura.com/daikaibunko
公式Instagram https://www.instagram.com/daikaibunko/