福島県の北西部、新潟県に近い西会津町。人口5,800人ほどの山あいの町に、ワークプレイス「いとなみ」はあります。ここを運営しているのは佐々木さんご夫妻です。
ご夫妻は「いとなみ」から歩いて300メートルほどの場所にあるゲストハウス「ひととき」も経営しています。佐々木さんご夫妻は「人と人の顔が見える関係の中で日々を過ごしたい」という思いから、県内の中でもあえて人口1万人以下の町を選び、2017年に移住してきました。そして、まずゲストハウス「ひととき」を2018年に始めます。
そこから次の展開として「いとなみ」を2021年6月に設立しました。
集合体の1パーツ
多世代向けワークプレイス「いとなみ」は、本を読むだけでなく絵を描いたり文章を書いたり、勉強したり編み物をしたり「集うみんなそれぞれが思い思いの時間をこの場所で過ごしてほしい」という思いから作られた場所です。
「一人ひとりの『ワーク』が集合体となって、暮らしを形づくり、まちを形づくる。だから、初めから『まちづくり』や『事業』や『プロジェクト』があるということではないと思うんですね。ぼくらのこの場所も、集合体の1パーツだと思っているんです。そう考えると『ワークプレイス』という言葉が一番ぴったりすると考えて名付けました。」
一人ひとりが日々を生きる。その生きる営みが集まって出来上がる日常の生活。その集合体として、村や町がある。だからこそ、一人ひとりの日々の営みを大事にしたいという思いが伝わります。
暮らしを豊かに
一箱本棚オーナーさんは、町内半分、町外半分です。
置かれている本の分野は、旅の本や数学の本、DXなど様々ですが、手仕事の本や料理の本など、昔の農村の暮らしや生活に関係している本が多く、西会津に集う人たちもそういう分野に興味関心がある人が多いです。
「日常の暮らしが豊かにならないと、と思っています。今のうちに、まだ息づいているローカルな村の暮らし方を学んでおきたいと思っています。大人が変わっていかないと良くならないと思うんですよ。自分で何かを学びたいと思ったときに、学びにいける場所としてここがあるといいなと思っています。」
オーナーさんの中には、マタギ(※日本の東北地方や甲信越地方にかけての山岳地帯で、古い方法を用いた狩猟を職業としている人)をテーマに選書している人もいらっしゃいます。
先日、そのオーナーさんの知人のマタギを題材にした本が出版され、その出版記念イベントを「いとなみ」で行いました。マタギに関するイベントというのは、この地方ならではです。10人ほどが集い、関心のある人同士で濃密な時間になりました。
日々を豊かに暮らしていくために、本を読んだり人と出会ったり。そんなことのできる「いとなみ」は暮らしの一部です。
進化中
「いとなみ」は空き家物件を借りています。素敵だなあと思った欄間(※日本の建築様式に見られる建具の一種で、透かし彫り等を施した板がはめ込まれるなど、部屋と部屋の境目の、天井と鴨井の間に採光や通風のために設けられた部分)などはそのままに、みんなでセルフリノベーションをしました。
リノベーションを手伝ってくれたのは、ゲストハウス「ひととき」を過去に利用してくださったゲストさんや調査活動などで西会津と縁を持ってくれた県内外の大学生、地域おこし協力隊の方々など。
声をかけた結果、たくさんの人が協力してくださいました。コロナ禍の影響もあり、構想から設立まで約2年。その間、いろいろな人の力が集まって「いとなみ」は出来上がりました。
また、最近では、インターンに来ている大学生が自分で設計した書架を作ってくれました。このように人々の営みによって「いとなみ」はまだまだ進化中です。
何か新しいものが始まる場所に
西会津町は以前から廃校となった木造校舎を利用した西会津国際芸術村があり、芸術やアートに関心がある人たちの流れもあります。「いとなみ」設立時に制作したイメージボードは、水彩画をしているオーナーさんが描いてくれました。
最近は、お店番ボランティアも定期的に募集しており、あるお店番の方の趣味がきっかけとなり、大人の塗り絵コーナーが生まれたり、自身が制作している切り絵作品を「いとなみ」の壁に展示してくれている方もいます。
「僕たちができなかったことを、オーナーさんやお店番のみんながそれぞれの力を出してくれて、『いとなみ』を形づくってくれています。今後はさらに、いろんなバックグラウンドのお店番さんが集まってきてくれたり、オーナーさんのつながりや輪が広がって、オーナーさん発信で勉強会や企画が生まれていくといいなと思っています。何か新しいものが始まる場所になるとうれしいです。」
「いとなみ」は、今日もいろいろな人の営みが集まって形づくられています。
ワークプレイスいとなみ
〒969-4512 福島県耶麻郡西会津町上野尻下沖ノ原2622−1
公式ウェブサイト https://www.100itonami.com/
Twitter https://twitter.com/itonami_library