本と喫茶 夢中飛行

 JR大宮駅東口から、氷川神社の参道を目指し7、8分歩くと、氷川神社の二の鳥居の前の「氷川神社入口交差点」の手前、一の宮通りにks’氷川の杜のビルがあります。1階が喫茶店の建物の横のスペースに、「夢中飛行」の素敵な看板があり、階段を上った2階が、みんとしょ「本と喫茶 夢中飛行」となっています。

 

 元大宮図書館の建物を改装した「Bibli」のシェアプレイス「ハムハウス」のみんとしょ部分が、こちらに移転して、再出発したものがこの「夢中飛行」です。

 店主でデザイナーの直井薫子さんは埼玉県出身で、さいたま市浦和区の北浦和で自宅兼仕事場兼本屋「CHICACU Design Office & Bookstore」をオープンし、「ハムハウス」でのシェア本棚運営にも携わっていました。その後の展開の中で、こちらの物件と出会い、「夢中飛行」を開館。ここは、開館直後に「ハムハウス」の一箱本棚オーナー等で、80棚が埋まりました。

 みんとしょアンバサダーの宮﨑一徳が直井さんにインタビューしました。

(直井さん)自宅で本屋を2020年にスタートしました。コロナに突入する直前ですね。私は出版社のデザイン部に新卒で入って、本の売場とか読者のことが意外と見えづらい環境だと思ったんです。これだけ出版不況って言われてる世の中であれば、本の売り場をデザインするっていうのが命題としてあるだろうなあ、と考えながら22歳を過ごしていました。実践に移しやすい無理のない形の本屋を作るっていうと、家を開くっていうのが1番やりやすかったんです。それでスタートしたんですよね。見よう見まねでやっていながらも、本屋として認知していただくようになってからは、結構1人でもできること、あるいは個人書店でもできることがいっぱいあるなと思う中で、本を売るってこと以外にも、1つの本屋というのがまちのハブになって、いろんな人が訪れて、対話する場所になる可能性が見えたのと、本を通して、全く自分が関わりのなかった街のキーパーソンとか、一般の方とどう繋がり合うのかが、少しずつコーディネートできるようになってきた。週に1日だけ営業する新刊書店ではあったんですけど、その体験がものすごく自分とまちを近づけました。

 自分が住んでいる街に遠すぎず近すぎずな本屋の店主という距離感の話し相手がいることが、お客さんにとっても自分にとっても良い場だと思ったので、私だけじゃなくてみんなでやった方がいいなと思って、新刊書店の一部を図書館化するというか、棚を貸して、町のなんとかさんの選書棚を作ろうとか思ってた時に、「ハムハウス」の話があったんですね。まちづくりの拠点となる公共空間跡地の再利用に、本を使って関わってくれないかという話があって、その話に乗りました。最初は書店を作ろうかと思ってたんですけど。本を買うだけではなく売る側の方が面白いんじゃないかとか、旧図書館という建物の歴史があるので、貸し出しができた方がいいんじゃないかなんてことを知人と話してたら、「さんかく」さんとか「だいかい文庫」さんの存在を教えてもらったんですね。

 この活動を続ける思いとしては、このまちに住んでいる人と繋がり合うきっかけとして、本のある場所が、本のある共有地が生きてくるっていう、そういう体験をみんなで味わえたらなという思いが根っこにあります。

(宮﨑)「「夢中飛行」のプロモーションビデオに出て来る、「「私」が「私」らしくありたい。そのことはとても大切だと思う。だけどそれだけじゃ「私たち」つまり「世界」は維持できない。「私たち」が「私たち」らしくあるために、「私」を大切にできる人たちが、「私たち」という単位をつくる。「世界」を考えることは、まだちょっと大きすぎるから身の回りから少しずつ、私たちを、世界を、認知していく。そんな本屋に、「私たち」が、なれたら。「私たち」の夢は、今日も、手のひらの宇宙を飛び続ける。」という言葉、素敵だったので、メモをしてしまいました。」

 大宮は意外と個人書店がなくてですね。ほとんど大手さんしかないので。そういう意味ではカルチャーの一側面として、本という文化が、個人の手で作られていくっていうのはすごくいいなと思っていて。こうみんとしょの活動って、市民活動でもあるなと思うので、そういう機会や価値観を共有できる人が集まってくるっていう意味では、何か次に繋がりそうな感じがしますよね。

 「夢中飛行」のオープン以来、著書『ゆっくり、いそげ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』等で有名な影山知明さんや芥川賞を受賞した地元の作家や、クリエーターなど、多くの方を呼んでイベントを実施されたり、お正月は氷川神社の参拝客を対象に本屋屋台を出したり、実に積極的な活動をされています。

 また、定期的に行っている読書会も好評で、盛り上がっています。私も、一度、読書会に参加しました。その回は、ローバート・A・ハインライン『夏への扉』を読んで来て感想等を述べ合うものでした。私は「みんとしょアンバサダー」と名乗らず、一般の参加者として参加したのですが、他の参加者の方は、初めて会う私の話もしっかり聞いて下さり、お互いに活発なやりとりの中で、様々な気づきにたどり着く等、とても素敵なひと時となりました。そうした読書会を行える人たちが集まる状況がここには既にできていました。

 偶数月に1回やってます。シェア本棚のオーナーさんの中で、日本の最大規模の読書会で活動している方が企画して始まりました。好きな本についてのイベントだからみんな参加しやすいじゃないですか、読書会って。継続していくうちにリピーターも増えました。

「下層階の喫茶店でやったりもしてますよね。」

 そうなんです。直近は、夢中飛行の店内で読書会をしてから、ランチ会を下のカフェで開催し交流を深めています。

「夢中飛行の店内で飲食もできるのですよね。」

 アップルパイ専門の喫茶店です。ヨシタケシンスケの「りんごかもしれない」の本のキャラクターの人形を宮﨑さんにサプライズでいただいたので、店頭に飾ってますよ。アップルパイは全てお店で作っています。家賃を担保するために、シェア本棚だけだと、他力本願ですよね。自分たちで稼ぐ術を作ろうってなった時に、来たくなる理由の一個を、本以外にも持っておこうと。 本が嫌いな人は、さすがに来ないかもしれないですけど、「そんなに本に興味ないけどアップルパイは好き」みたいな人はきてくれるといいなあと。

 

 令和5年(2023年)11月の法政大学大学院まちづくり都市政策セミナーの分科会は、直井さんが登壇。前年の令和4(2022年)には、みんとしょアンバサダーの風間一毅氏と私、宮﨑も登壇していますが、まちづくりにみんとしょの存在は一定の役割を担うようになっているのかなと思います。直井さんの「文化が寛容なまちを作る。」という言葉、心に響きました。主催の法政大学の吉永明弘教授も「夢中飛行」の一箱本棚オーナーというご縁もありました。

「私は、みんとしょ繋がりで、初めて大宮の町を訪れました。駅周辺のにぎやかな様子、氷川神社の立派な参道と歴史あるお社、美味しいもののお店等、とても魅力的な町だと思うようになりました。一度は、氷川神社の参道のベンチで静かにゆっくり本を読んで、とても満ちたりた気分になりました。太宰治が住んでた町としても有名ですよね。」

 氷川神社と本がらみで太宰っていうのは、外せないところです。あとは一の宮通りって、古着屋さんが多く、感性の豊かな人がやって来ます。そういう人たちに、本を読んでもらえるような面白い、隠れ家みたいな場所になったらいいなと思っています。

 太宰については、「夢中飛行」のちょうど裏手に宇治病院っていう病院があって、そこが、太宰が世話になってたちくま書房の社長の古田さんのご縁のある場所なんですね。太宰が大宮で「人間失格」を執筆している最中、宇治病院に通っていたと言われてます。また太宰がお酒を買っていた酒屋は宇治病院からまっすぐ1分歩かないぐらいのとこにあります。先代の時に太宰が通っていて、今は息子さんに引き継がれています。

 今は、2024年に夢中飛行で行われた過去のトークイベントの動画を配信しようと準備中です。2024年に芥川賞を受賞した「東京都同情塔」の作者である九段理江さんや、メガヒットとなった「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」の作者である三宅香帆さんのトークイベントをフル視聴できますので、ぜひ夢中飛行のSNSをチェックしていただけると嬉しいです。(2024年12月配信開始予定)

「ありがとうございます。ますます楽しい「夢中飛行」になりそうですね。」

本と喫茶 夢中飛行

〒330-0803 埼玉県さいたま市大宮区高鼻町1丁目56 ks’ 氷川の杜 201号室

公式ホームページ https://muchu-hiko.com/

公式Facebook https://www.facebook.com/muchuhiko

公式X https://x.com/muchuhiko

公式Instagram https://www.instagram.com/muchuhiko

関連記事

  1. さいかちどブンコ